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福岡地方裁判所小倉支部 昭和50年(ワ)485号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは原告に対し、別紙目録記載の機械(以下、本件機械という)を引渡せ。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二  請求原因

一  原告は、昭和四八年八月八日、訴外田中鉄筋株式会社(以下、田中鉄筋という)に対し、原告所有の本件機械を、次の約定のとおり、所有権を留保して売渡し、田中鉄筋へ所有権が移転するまでの間は無償で貸与する旨の契約(以下、本件契約という)を締結して、本件機械を引渡した。

1代金 五、九七五、三三五円(本件機械の価格五、三〇〇、〇〇〇円、延払いによる金利六七五、三三五円)

2支払方法 昭和四八年九月三〇日に二三三、三三五円

昭和四八年一〇月から昭和五一年二月まで二九回にわたり毎月末日に各一九八、〇〇〇円(支払のため金額一九八、〇〇〇円、各支払期日を満期とする約束手形二九通を振出して原告に交付する。)

3特約 (1)本件機械の所有権は、右代金を完済したときに田中鉄筋に移転する。

(2)田中鉄筋へ所有権が移転するまでの間は、原告は無償で貸与する。

(3)田中鉄筋に次の事由が生じたときは期限の利益を失い直ちに未払代金全額を支払わなければならない。

(イ)手形が不渡となつたとき。

(ロ)支払を停止したとき。

(ハ)破産、和議、会社整理、会社更生の申立等の原因となる事実が発生したとき。

(4)田中鉄筋に前頃の各号に定める事由が発生したときは原告は何んらの催告をすることなく本件契約を解除し本件機械の返還を求めることができる。

(5)本件契約を解除された場合において原告が本件機械の返還を請求したときは田中鉄筋は原告の営業所または原告の指定する場所に持参して返還する。

二  ところが、田中鉄筋は、昭和五〇年四月八日、福岡地方裁判所小倉支部に対し、会社更生手続開始の申立をなし、同裁判所は、同月一四日に同月七日以前の原因に基づいて生じた一切の債務(ただし、従業員の給料、電気、ガス、水道料金を除く)の弁済およびその他財産の処分を禁止する旨の保全処分をなし、同年七月三日更生手続を開始する旨の決定をなし、被告両名がその管財人に選任された。そして、右保全処分により、原告が田中鉄筋から本件機械の代金支払のために交付を受けていた前記約束手形のうち昭和五〇年四月三〇日満期の手形一通が満期に支払を拒絶された。

三  そこで、原告は、昭和五〇年五月二六日、田中鉄筋に対し、前記特約(イ)(手形が不渡になつたとき)、(ハ)(会社更生の申立をなしたとき)に基づき、本件契約を解除する旨の意思表示をなし、右意思表示はそのころ到達した。

四  以上のとおり、本件機械は原告の所有であつて田中鉄筋に属しない財産であるから、原告は会社更生法六二条によりそれを取戻す権利を有する。よつて、原告は被告らに対し、本件機械の引渡を求める。

第三  請求原因に対する被告らの答弁

原告主張の請求原因事実はすべて認める。

しかしながら、本件売買はいわゆる所有権留保売買であつて、その実質は売買代金確保のための担保と解すべきであり、また田中鉄筋は本件機械の引渡を受けているのであるから、会社更生法六二条、一〇三条の規定の適用はなく、原告の売買契約解除によつて当然所有権が原告に移るものではない。従つて、田中鉄筋に対し会社更生手続が開始されたのであるから、原告は、更生担保権者としてその権利を行使すべきもので、本件機械の取戻権を有しない。

第四  証拠関係(省略)

理由

一  原告主張の請求原因事実についてはすべて当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第六号および弁論の全趣旨によると本件機械の売買代金のうち三、五九九、三三五円の支払がなされていること、原告の田中鉄筋に対する本件契約解除の意思表示は昭和五〇年五月二七日到達したことが認められる。

二  そこで、会社更生手続の上で所有権留保約款付割賦販売(以下、所有権留保売買という)の売主の地位をどのように解すべきかについて検討する。

所有権留保売買において売主が代金完済まで所有権を留保するのは、買主が残代金の支払をなさない場合は、売買契約を解除して目的物を回収し、それを任意の方法で換金するなどして換価金から残代金の満足を得ることを目的とするものであつて、売買残代金についてその債権担保のための手段としてなすものであると解される。従つて、売主の所有権留保特約上の権利はその実質は担保権と解するのが相当である。

右のように所有権留保売買における売主の所有権留保特約上の権利は、その実質は担保権であるから、買主について会社更生手続が開始された場合に、売主はその所有権を主張して売買目的物の取戻を請求することはできず、更生担保権者に準じて、会社更生手続においてその権利を行使すべきであると解する。売主に取戻権を認めると、更生手続外で満足を受けることになり、更生担保権者ことに譲渡担保権者と比較して極めて有利な取扱を受けることになつて不公平であり、また所有権留保売買の目的物は更生会社にとつて重要な物的施設である場合も多いと考えられ、取戻権を認めると会社更生の目的が達せられなくなるおそれもある。

従つて、原告は本件機械の所有権を主張してその引渡を請求することはできないこととなる。

三  ところで、本件においては、原告は更生手続開始前に手形の不渡および会社更生の申立を理由に本件契約の解除をなしているのでその点につき検討する。

原告主張の解除原因としての手形不渡は、昭和五〇年四月三〇日満期の約束手形の支払拒絶であるところ、右の支払拒絶は、昭和五〇年四月一四日、田中鉄筋に対して会社更生法三九条による旧債務の弁済禁止の保全処分がなされていた結果に基づくものであつて、田中鉄筋は右保全処分により旧債務を弁済してはならない拘束を受けるのであるから、右約束手形の支払拒絶を履行遅滞として解除原因とすることはできないものと解する。

次に、本件契約には田中鉄筋の会社更生の申立が解除原因となる旨の特約が存することは、当事者間に争いがないが、これは更生手続の開始されることを当然の前提として、更生手続が開始された場合に当然に特定の債権者のみを保護することとなすものであつて、右のような特約は会社更生手続上は無効であると解するのが相当である。

従つて、原告の田中鉄筋に対する本件契約の契約解除の意思表示は、更生手続開始決定の前に到達しているけれども、右に述べたとおり、契約解除の解除原因を欠くから解除の効果は発生しないこととなる。

四  以上により、所有権に基づいて本件機械の引渡を求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

目録

(物件の所在地)

北九州市八幡西区皇后崎町一三番一号

更生会社田中鉄筋株式会社構内

(品目)

東急トラッククレーンのOH―五〇三A 一台

以上

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